無機質なマンションのドアを開けると、張っていた気が一気に緩むのを感じた。
私は少し高めのヒールにやつあたりする様にソレを脱いで寝室に入り、ベッドになだれ込む。
彼は一昨日私を忘れた。私を見る目にあった愛しみがなくなっていて、安心してしまった私は泣けなかった。
そして今日彼は世界を忘れた。この星の青さも、私たちの神も全部。
あの白い一室だけが彼の世界の全てになった。
自身のことしか覚えていない彼はそれなのに正常でいて私には既に狂っているように見えた。
彼の世界がいつまでも馬鹿みたいに回っているから私はとうとう泣いてしまいました。
(始めから君には全て要らなかった)(それでも君は私の世界だった、よ)
いつだったか、俺は俺を忘れた。きっと、もう随分前に。
枕元のノートには俺自身の記述がしきつめられていて、不自然な程に名詞が使われていなかった。
ただ、最後のページに一言「彼女のために」きっと俺はこの瞬間に世界を捨てた。
俺にあるのは彼女だけで、それでも彼女を忘れることに決めたのは目に宿る愛しみをみていられなかったから。
そしてとうとう昨日俺は世界を忘れた。もう何も覚えていない、彼女以外は。
(揺れないのは随分昔から俺の世界は彼女だけだったから)(誰か彼女を忘れる薬を下さい)
((
呼吸をし、瞬くのは二つ、私たちしかいない世界))